研究内容

○研究室の目指すもの
これからの少子高齢化社会においても,人々が安心・安全・便利に暮らすことのできる超スマート社会.我々は高度な無線利用による次世代の通信方式技術を構築することによって超スマート社会を実現し,社会に貢献することを目指します.

○無線屋にしかできないことがある.我々の創る未来が,真の未来.
この超スマート社会では,無線の活用が必須となっています.スマホはもとより,コネクティッドカー,スマートグリッド,massive IoT(Internet of things),歩行者安全,見守りサービス,遠隔医療など,すべての仕組みは無線を活用することにより初めて実現できます.

ところが,巷で紹介されている超スマート社会には一つだけ問題点が隠されております.それは何でしょうか?
実はほとんどの説明では,無線伝送が完全であるという無茶な仮定をしているのです.しかもこのことを隠しています.どのようにしたら次世代無線伝送が実現できるのかが解らないからです.

我々は違います.電波の限界を踏まえつつ,無線の高速化,高信頼化を通信技術の結集によって一歩ずつ実現してきました.つまり我々が創る未来こそが,本当の超スマート社会なのです.あらゆるシーンに最適な通信を提供する.これが我々の使命です.

具体的には,下記のような技術の高度化を研究しています.

○研究テーマ例
1) 5G・6G移動通信システムの実現
スマートフォンを初めとする移動通信システムは,一人1台以上まで普及し,社会インフラストラクチャの一端を担う存在になりました.この移動体通信システムは,ソフトウエア・ハードウェアの進化により常に伝送速度の高速化が求められており,現在10Gbps伝送を実現する第5世代セルラ通信システム(5G)の標準化の検討が進んでおります.この実現を担うのは,複数アンテナシステム,基地局間連携,orthogonal frequency division multiplexing (OFDM),周波数領域等化など,通信方式の多種多様な要素技術ですが,10Gbpsを実現するためには更に革新的な要素技術が必要と考えられております.我々はこの要素技術の高度化を図り新しい技術を提案することによって,第5世代セルラ通信システム実現に貢献します.
cellularsystem
例えば,第4世代移動通信システム(long term evolution-advanced: LTE-A)で用いられているmultiple-input multiple-output orthogonal frequency division multiple access(MIMO-OFDMA)と呼ばれるユーザリソース割り当て手法に符号拡散軸を加えたMIMO-OFDMA-CDM(code division multiplexing)手法を新たに構成し,伝送誤り率特性の改善を実現しました.

2) 自動運転の実現
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近年,自動車に行先を入力すると自動で目的地まで移動する無人運転技術が注目されております.無人運転以外にも高度運転支援技術は多岐に渡っており,例えば前方道路状況情報に基づく自動ブレーキや,周辺歩行者の検知による自動ハンドル操作など,安全性確保のための運転支援システムの構築も非常に有効です.このようなシステムの実現には無線通信が不可欠であり,その無線通信リンクは高速移動を行う移動体のため伝搬路変動による劣化が大きく,さらなる高品質低遅延伝送の実現が求められております.この,高速移動体における車車間,路車間通信向けマルチホップ低遅延伝送方式の開発を行っております.具体的には,アナログネットワークコーディングと呼ばれる双方向伝送アルゴリズムにおける,今までにない高精度伝搬路変動補償方式を構成し,高速移動を可能としました.

3) 光・電波衛星通信の研究
光衛星通信:

2017年5月に我が国では「宇宙産業ビジョン2030」が制定され,さらなる積極的な宇宙開発が推進されております.その宇宙技術の根幹を支えるのは地球との高速通信です.人類のホームグラウンドである地球との確固たる通信手段を有することで,初めて有人・無人を問わず宇宙への進出が可能となります.この無線通信は現在のところ電波を用いたものが主流ですが,空間光通信も有効な手段です.無線の媒体として光を用いることで,電磁波に対し被・与干渉が存在しないこと,高い直進性を持ち情報漏洩が防げること,大容量通信が行えること,などの大きな利点を得ることができます.この空間光通信を衛星通信に用いるものが光衛星通信であり,光衛星通信を実現することで,地球規模での超高速通信ネットワークを構築でき,宇宙ステーションと地球局との間に固定網と変わらないインフラ回線を提供できます.しかしながら大気を通過する光衛星通信路は電波を用いる無線通信と比べ伝搬路状況の変動が激しく,長時間高品質な長距離伝送を行うことは現在ではまだ実用化の段階に達しておりません.一方,通信路符号化技術は,通信路に加わる雑音,干渉の影響により劣化した受信信号から,受信誤りを訂正して高品質な伝送を実現する技術であり,電波による無線通信システムには必ず適用されております.そのため様々な符号が既存の研究により開発されていますが,空間光通信用の通信路符号技術において,どのような符号設計が適しているかが明らかではありませんでした.そこで我々は伝搬路変動の激しい光衛星通信路に対し,主に通信路符号化の一種であるLDPC(low-density parity check)符号を適用し,設計の最適化と伝送実験により品質改善が可能であることを明らかにしました.これにより超高速通信の実現に寄与しています.

電波衛星通信:
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現在1台の携帯電話で地上基地局と衛星基地局に接続できる,地上/衛星共用携帯電話システムが注目されています.通常の街中においては地上基地局に接続することで高速通信を実現し,山間部,海洋部など人口密度の低いところでは衛星に接続することで広域な通信を可能とします.また災害時などで地上基地局が故障した場合にも途切れない,極めて有効な通信手段となります.しかしながらこのシステムでは周波数を地上と衛星で分離した場合,使用できる帯域幅が減少してしまい,特にセルエリアが地上セルラより1000倍以上大きい衛星セルにおいてユーザ収容数が減少してしまいます.しかし周波数を共用すると互いに干渉が生じ,通信路容量が低下してしまうためこちらもユーザ収容数が減少してしまいます.そこで我々は,周波数共用型システムにおいて,干渉成分を考慮に入れたリソース割り当て技術と干渉補償技術を導入することで,品質の良い地上/衛星共用携帯電話システムが実現可能であることを計算機シミュレーションにより明らかにしました.

4) 全く新しい電波暗号化変調方式の構築
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無線通信において,複数アンテナ(MIMO)伝送方式は周波数帯域幅を広げることなく伝送容量を増加させることができるため幅広い無線通信システムに用いられております.さらに,セルラにおける端末間(device to device: D2D)通信,ZigBeeや無線LAN,車車間通信におけるマルチホップ通信など,近年では短距離無線の需要が増加しております.一方,スマートフォンを用いた情報検索,レコメンド機能の普及,オンライン決済など,無線による個人情報の伝送が増加し,無線通信における更なる安全性確保も求められています.しかしながら現在の秘匿性確保は,公開鍵暗号方式やIPSecなどのスクランブリングなどによる上位層プロトコルによってなされており,物理層の伝送信号は秘匿されない状態でした.このような背景においては物理層,つまり伝送信号そのものからの秘匿性確保を行うことも重要です.そこで我々はMIMO伝送の各アンテナ送信信号にカオス信号を乗算することで伝送の秘匿性を電波の状態で確保し,なおかつカオスと伝送ビットに相関を持たせることにより誤り率特性を向上させる,カオスMIMO(C-MIMO)と呼ばれる手法を構築しました.これにより周波数帯域幅を広げることなく十分な強度の暗号化と高品質伝送を実現しました.
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現在この手法を5Gの超多数Internet of Things(IoT)端末接続シナリオに適用した,5G電波暗号化非直交多元接続手法を提案しており,安全かつ省電力なIoT通信を実現することを目指しております.

5) センサーネットワークにおける位置推定技術
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室内において人が持つ端末の位置を把握して便利なサービス提供するlocation-based service(LBS)は,その適用範囲が広く種々の新しいサービスやアプリケーションが期待できるため,現在注目されております.例えば空調・音響・照明の分解能を上げることができ,省電力化や個人の要望に応じた環境提供が可能となるなど,大きな展開が可能です.屋内ではglobal positioning system(GPS)信号が受信できないため,位置が未知の端末から位置が既知の固定センサへ無線通信を行い,三角測量の原理により推定位置を算出することが一般的になっていますが,無線伝搬路間に障害物があった時に推定精度が大幅に劣化することが課題になっております.我々はこの見通し外環境における高精度な位置推定手法の検討を行い,見通し外環境のセンサを検出・除外することで推定精度を高める技術を提案しました.現在この技術を,人近傍のみのスポット的な電力配分により照明・音響・空調・ディスプレイ・家電を優先稼働させることでスマートグリッド(次世代電力網)におけるスマートメータの性能向上に役立てる手法を検討しております.将来的には室内の端末・家電に高精度位置推定情報を用いたスポット無線電力伝送を行い,電源ケーブルを無くすことを目標にしております.


6) 工学教育研究(学科業務の研究展開)
学校教育法では大学は「学術の中心として広く知識を授ける」場であり,その仕組み上,効果的な知識の伝授には学生さんの自発的な学習姿勢に依るところが大きいわけです.この,学生さんの意欲的な学習を支援するため,日々の学習活動の記録を取ることにより学生さん自らが達成度を随時確認でき,その結果最終的にはより高い達成度を得ることができるという効果を目指した「学生手帳」を作成し,電気電子工学科600名に配布しました.この手帳は,狭い範囲でなく学部教育のフロー全体を振り返り対象とできること,生活に密着できるため24時間いつでもどこでも気軽にアクセスができること,さらに電子媒体と異なり個人情報保護が機構的に確保されており,記入に対する安心感を与えることができるということの3つの利点を有しています.
pocketnote
手帳の小型化による改善


○社会との連携
これらの研究のほとんどは,国立研究機関,企業,自治体,他大学の研究者とともに実施しております.最先端の研究をパートナーとともに協力して進めることで,基礎研究から技術標準化,社会実装まで幅広い活動を行うことができます.